2017/10/10





町はいつもそこにありました。
そこらじゅうにあった、野原やあぜ道はしだいにコンクリートで舗装され、ひろがる田んぼの景色が少しずつ縮小され、あとにはお店ができました。家が建ち、そのとなりには、また同じような家が建ちました。

それでも町はそこにありました。
朝は気持ちよくつんと冷えていて、どの場所もだいたいきらきらと輝いていたし、夜はほどよく静かで、時々遠くの踏切の音をかすめ、花の匂いがどこからか香りました。

久しぶりに歩いた通学路は、まるで夢の中を泳いでいるようでした。
広い道路、がらんどうの商店街、妙に見晴らしのよい大通り
大きな橋、大きな川、大きな銅像、
手入れの行き届いた花壇、犬の置物、四つ角

毎日歩いたあの頃より、ずっと大きくなったのに。この場所の何もかもは、昔と同じ距離のままで、ここに生きている。私だって、色々と渡り歩いてきたけど、まだうろうろとここに居る。遠くに居ても、積み重なる日は一緒だね。歩く速さも変わらないね。

本当に夢をみているような日。シーンが切り替わって、今は家の周りを歩いている。靴下を脱いで、下駄を脇に置いて、裸足で土を踏みしめる。足の裏の皮膚が、何事かとびっくりしているのが分かる。だから、できるだけ優しく地球と接する事が出来た。地面はぴりっと研ぎ澄まされているのに、甘くてさらさらだ。
一面の白い花のじゅうたんに出くわす。ここにも誰も居ない。じんわりくる。行き着いた今日の一番の高いところ。どうもありがとう。